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いしぷろ日記

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建築家と健康サンダル

随分昔、あるプロジェクトで、建築家のIさんを含むメンバーとともに飛騨高山のデザイン事務所を訪れたことがある。
Iさんは当時60代くらいだったのではないかと思う。白髪交じりのヒゲを短く整え、デザイナーズブランドのスーツをラフに着崩して、いかにもモテそうなちょいワルおやじだった。
Iさんは著名な人だったのでメディアではよく拝見していたが実物にお目にかかるのはそのときが初めてで、20代半ばの私は少々というかかなり緊張していた。
打ち合わせの場所であるデザイン事務所は、世界遺産にもなっている白川郷の近くの一軒家で、名のある建築家が手掛けたらしい小洒落たたたずまいだった。
気おくれしながらドアを開けると、だだっ広いフローリングの空間が広がり、開け放たれた窓の向こうにはウッドデッキのテラスがあり、その向こうに北アルプスの山々が見えた。部屋の中央には、無垢材の大テーブルがデンと置かれ、その周囲には地元の若手デザイナーがデザインしたという椅子が並べられていた。
細部にわたるまで完璧なまでにお洒落な空間だったが、そこに一つだけ妙に違和感のあるものがあった。それは、玄関にぽつんと置かれた健康サンダル。足裏のツボを刺激するいぼいぼのついたアレである。
「え? なに、これ」と思ったのと、「いいねえ、こういうの、ボク大好きなのよ」とIさんが言ったのがほぼ同時だった。
Iさんはためらうことなく、ずらりと並べられたオシャレなスリッパではなくその健康サンダルをはいて、すたすたと部屋の中に入っていった。
私は目をまんまるくしてIさんの後姿を見ていたが、次の瞬間、Iさんのことが大好きになっていた。
そして、Iさんのような人になりたいと思った。
ドがつく田舎に生まれ育ち、東京に出てきて何年か経つのに、いつもどこかおどおどびくびくしていた私の、肩に入った力をすーっと抜いてくれるできごとだった。
あれから20年以上がたち、私も見た目だけはベテランになった。打ち合わせなどで会う人たちはほとんどが私よりはるかに年下である。若手の人が緊張していたり、場がなんとなく堅くなっていたりするとき、私はいつもIさんを思い出す。で、くだらない冗談を言ってみる。すべることもあるのだけど、私としては、あのときのIさんのように健康サンダルをはいてすたすたと歩いているつもりなんである。
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