いしぷろ日記

電車で会った人

明日日本を発つという友人に会うために新幹線に乗った。

自由席はそこそこ満席で、
品川で隣に一人のビジネスマンが乗ってきて、名古屋で降りた。
名古屋で次に乗ってきたのはおばちゃんだった。
おばちゃんは、お弁当のサンドイッチを静かに食べると
ゴミを捨ててもどってきてから言った。

「いいカメラですね。お仕事ですか」

前の座席の網ポケットにぞんざいに放り込まれた私の一眼レフのことだ。

「いえ、単に趣味で」
「ああそうですか」

それきり会話は途切れたのだけど、おばちゃんはもう少し話したいのではと思って聞いた。
「どこまで行かれるのですか?」
「京都まで」
「じゃあ同じですね」

私もつくづく年をとったなあと思うのだが、電車で隣り合わせた見ず知らずの人と
会話するのは平気になった。

「学生のころの同窓会が毎年九州であるんだけど、今年は京都でやろうということになって。私が夫を去年なくして引きこもってばかりだから、みんなが引っ張り出そうとしてくれて。京都だったら出てこられるだろうって言ってねえ」
おばちゃんはするすると語りだした。

静かに耳を傾けていると、みんないろいろなことを話してくれる。
どんな人も珠玉の物語を持っているのだ。
それを聞くことが楽しい。

「写真ってやっぱりいいわねえ。カメラを見たら思い出したのよ。夫を亡くしててから押入れいっぱいの写真を整理していたら、いろいろなことがありありと思い出されてきて。ああたくさん撮っておいてよかったって。そうそう、現像しないままの古いフィルムも何本か出てきたんですよ。何を撮ったんだろうと思って現像してみたら、子どもたちの小さいときの写真で。懐かしくてねえ。そりゃ色はあせてましたけど」

おばちゃんは、九州の大学を出て愛知県に就職し、去年定年退職するまで働いていたこと、これから二人であちこち旅をしようと楽しみにしていた矢先にガンで夫を亡くしたこと、夫の遺した畑で黒米を作っていること、無農薬だと草取りが大変だけど、都会で働いている息子が近々もどってきて畑を手伝ってくれることなどをつらつらと話してくれた。

あっという間に新幹線は京都に着いた。

おばちゃんは
「ありがとう」
と頭を下げると静かに席を立った。

「よいご旅行を」
と手を振ると、おばちゃんは、にっこり笑って人ごみに紛れていった。
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